M 様投稿作品





これより、四つ葉劇団による不思議の国のアリスを開演いたします。

ブーーーーー
スルスルスル……


昔々あるところに……え? 今回は違うの? そいつは失礼しました。
えー、コホン。それでは改めまして。
ある穏やかな日、こずえちゃんは川べりを散歩していました。

「あ〜、いい天気。こんな日はお散歩するに限るわね。
 でも、できれば高志と一緒だったら……な〜んて、キャ〜♪ はずかし〜♪」

こずえちゃんが一人で身悶えていると、突然後ろから謎の地響きが迫ってきました。

「な、何!?」

振り向くと、そこにはものすごい勢いでこずえちゃんに向かってくる白ウサギの姿がありました。

「うおおーーーー!! 遅刻遅刻ーーーーー!!」
「え!? て、鉄!? どうしたの? そんなに急いで……って……」

こずえちゃんが言い終わらないうちに、白ウサギはこずえちゃんの脇を抜け、見る見る遠ざかっていきます。

「ちょ、ちょっと待ってよーー!」

こずえちゃんは必死に白ウサギを追いかけます。
白ウサギは、垣根の垣根の曲がり角〜♪を物理法則を無視したスピードで軽やかに曲がっていきました。
こずえちゃんもその角を曲がると、不自然極まりなくぽっかりと開いていた大きな穴に落っこちてしまいました。

「な!? 何でこんなとこに穴がーーー!?」

叫びも空しく、こずえちゃんは落ちていきます。
どんどん落ちていきます。ひたすらに落ちていきます。
そして、こずえちゃんがいい加減落ちるのに飽きてきたころ、

「あれ? あの辺、なんか光ってる」

底と思われる場所がぼんやりと光っていました。

「やっと下りられるのね」

自分が落下してきたことを忘れたかのようにこずえちゃんはつぶやきました。
ここまで何百、何千メートルと落下してきたのですから、もちろん相当の速さになっています。
普通なら死にます。
しかしこずえちゃんはふわりと、まるで羽のように柔らかく着地しました。

「ここ、どこなの?」

見たところ洞窟のようでした。通路は一本しかなく、どうやら外につながっているようです。
こずえちゃんはその通路を通り、外に出ました。

「うわ〜〜〜」

目の前にはお花畑が広がっていました。
どれも見たことのない花ばかりでしたが、色とりどりの花は見るものに感動を与えるほどでした。

「とってもきれい……」

こずえちゃんはうっとりと見とれていましたが、
お花畑の向こうの森に入っていく白ウサギの後姿を見て、はっとしました。

「いっけない! 鉄〜、待って〜」

こずえちゃんは白ウサギを追って森の中へ入っていきました。





「も〜、待ってって言ったのに……」

白ウサギを見失い、ぶつくさ文句を言いながら森の中を歩いていると、

「あれ? あそこにあるのって」

一軒の木造二階建て住宅が見えてきました。
こずえちゃんは少し躊躇いながら、控えめにドアを叩きます。

「ごめんくださ〜い」

トントン、と軽い音が響きます。が、誰も出てきません。

「おかしいわね。声はするのに」

確かに中から声は聞こえてきます。
ただ、怒っているような声と謝っているような声はくしゃみが混じっているので、はっきりとは聞き取れません。

「……ノックはしたんだし、いいわよね」

こずえちゃんは意を決してドアを開けました。

「すいませ……はっ、はっ、くしゅん!」

ドアを開けたとたん、中に充満していた煙のような物が一気に噴き出し、こずえちゃんはくしゃみが止まらなくなりました。

「くしゅん! っくしゅん! な、なんなのよ〜」

くしゃみをしながらも中をのぞき見ると、

「ご、ごめんなさ……くしゅん!」
「謝るのはいいから、早くこれを何とかしな……くしゅん!」

そこにいたのはメイド服の女性と、西洋の貴婦人でした。

「あい先輩! 若葉先生!」

こずえちゃんは思わぬところで知っている顔に出会え、つい叫んでしまいます。
しかし、その声に反応して振り向いた二人はそれに答えず、戸惑うだけでした。

「何? 私に何か用?」

貴婦人があからさまに不機嫌に睨んできます。
こずえちゃんは少し気圧されながら言いました。

「え? えっと、若葉先生、ですよね?」
「誰それ? 私は公爵夫人よ」

断定的な口調と笑っていない目つきから、その言葉が冗談ではないことがわかります。
こずえちゃんは、今度は慌てて窓を開けているメイド服の女性に声をかけました。

「それじゃあ、あい先輩じゃ……?」

メイド服の女性はきょとんとした顔で振り返り、

「あたしはただの料理女です」

えへへと笑って見せました。

(どういうこと?)

考える間もなく、邪魔だからと貴婦人に追い出されてしまいます。
こずえちゃんはまた、帰り道もわからぬ森の中に一人ぼっちになってしまいました。

(どうしよう?)

などと考えても仕方ありません。
とりあえず来た道とは別の方向に歩き始めました。

「だから言ったでしょ! アルミホイルに塩酸かける時はちゃんと窓を開けておきなさいって!」

背後からは公爵夫人の怒鳴り声が聞こえてきます。

(なんで催涙ガスなんて作ってるの? やっぱり科学部だから?)

こずえちゃんはとぼとぼと歩を進めました。





どれほどの時間歩いたでしょうか。
森の出口は一向に見えてくる気配がなく、歩き疲れて音を上げる前に、こずえちゃんのお腹がぐうと鳴きました。

(お腹すいたなぁ……)

こずえちゃんふと道端に生えていたキノコに目を奪われます。
赤地に白の斑点があるまぁるいキノコ。
まるで赤い帽子のヒゲおじさんがおっきくなっちゃいそうなやつです。
こずえちゃんはおもむろにそのキノコを地面から引きちぎり、凝視しました。
何か決意めいた輝きが瞳に浮かぼうとした時、

「そのキノコを食べると本当に大きくなってしまいますよ」

いつの間にか、近くの木の上にネコが座っていました。
こずえちゃんはネコを見上げ、目を丸くします。

「芹沢先輩、ですか?」

ネコはきょとんとした表情でかわいらしく首を傾げ、

「いいえ、私はチェシャネコと申します」

チェシャネコは腰の後ろの細く長い尻尾を優雅に一振りしました。

(ああやっぱり違うのね)

思うこずえちゃんに、チェシャネコは穏やかな笑顔で言います。

「何やらお困りの様子ですね? 道にでも迷われましたか?」
「はい、そうなんです。もうどっちに行ったらいいか、さっぱりわからなくて……」

こずえちゃんはハァと溜息を一つ。
それから、これまでの経緯を話します。
真摯な態度で聞いていたチェシャネコは、話が終わるとなるほどと一つうなずき、

「森を抜け、川を渡った先に帽子屋さんがあります。そこの店長さんならきっと、いい知恵をお借りできると思いますよ」
「本当ですか!?」

こずえちゃんはようやくこの変な場所から抜け出せるのかとほっと一安心。
と思いきや……

「ただ、ここからではちょっと遠いですね。歩くなら三日ほどかかるかと」
「そ、そんなに!?」

こずえちゃんの背後が真っ暗になり、『ガビ〜ン』という文字が下りてきました。
チェシャネコはこずえちゃんの打ちひしがれた様子を見て悪戯っぽくクスクス笑うと、

「ですが、跨げば三歩です」

謎めいた言葉を発しました。
こずえちゃんの頭上にハテナマークが量産されていく中、チェシャネコはその細く長い指を、こずえちゃんの手の中のキノコに向けます。

「先ほども言いましたが、そのキノコを食べると『大きくなれる』のですよ」
「大きくって、どれくらいですか?」
「某星雲から地球の平和を守るためにやってこられたウルトラな人の三倍くらいにはなりますね」

こずえちゃんは思いました。

(いくら二次創作でもそれはいいの!?)

しかしこずえちゃんの危惧をよそに、チェシャネコは続けます。

「ちなみに、血の繋がっておられないご兄弟がたくさんいらっしゃるようですが、ここでは初代を指します」
(マニアックだ!!)

ともあれ、怪しげなキノコを、いつぞやの告白の次くらいに勇気を振り絞って食すと、あれよあれよという間にこずえちゃんは天突く巨人に変身。
森を、川を一跨ぎして、あっという間に帽子屋へ。
着くと同時に、何故かこずえちゃんの体は元のサイズに戻るのでした。

「やたら都合いいわね」

ここは不思議の国ですから♪
さて、帽子屋に着いたのはいいですが、何やら広いお庭でお茶会が開かれているご様子。
こずえちゃんはこっそり近づき様子をうかがいます。

「うむ、やはり紅茶はダージリンに限るね」

立派なテーブルにはタキシードにシルクハットの男性が一人、優雅にティーカップを傾けていました。

「あの、帽子屋さんですか?」

こずえちゃんは普段よく見る顔でもここでは別人だということをよく理解したようで、今目の前にいる人物は生徒会長兼科学部長兼男子寮長のあの人ではないと思いつつ、おずおずと尋ねました。

「おや、お客さんとは珍しい。よく来たね」

帽子屋はにっこりと人好きのする笑顔で応対しました。

「でも残念だねぇ。今はお茶の時間なんだ。また後で来てくれないかな」
「あの、そうじゃないんです……」

帽子屋は怪訝な顔をしましたが、こずえちゃんの何やら沈んだ様子を見て取ると笑顔に戻りました。

「どうやら、何か困っていることでもあるようだね。ボクで良ければ、話を聞くよ」

こずえちゃんは、これまでの経緯とチェシャネコの紹介、自分はどうしても元の世界に帰りたいということを話しました。

「なるほどなるほど、確かに大切な人とは離れたくないものねぇ」

帽子屋は右手で顎をさすりながら、何やら思案顔。
しばらくそうしてから、ちょっと待っててと席を外しました。

(これで帰れるといいんだけど)

こずえちゃんは一人、店内へと入っていった帽子屋を待ちます。

(結局ここはなんなんだろう? 見た目はそっくりだけど違う人がいるし……人じゃないのもいたけど。ともかく、普通の場所じゃないわよね。大きくなるキノコなんてゲームの中くらいにしかないんだし。もしかして、夢? でもまさか、今時夢オチなんて、ねぇ……)

こずえちゃんがそんなことを考え、しかし辺りを漂う紅茶の香りに、そう言えば私お腹空いてたんだっけと再びお腹をくぅとかわいらしく鳴らした時、

「やぁ、ごめん。お待たせ」

帽子屋が戻ってきました。
こずえちゃんはびくりと震えます。

(今の音聞かれたかしら?)

こずえちゃんは恥じらいに顔が真っ赤になっていますが、帽子屋はまったく気にせず手に持っていた、翼のついた赤い帽子を差し出しました。

「これは空飛ぶ帽子なんだ。これを使うといい」

帽子についた翼は何もせずともパタパタと動いています。
確かにこれなら空も飛べそうな気がします。

「あ、ありがとうございます」

こずえちゃんは帽子を受け取ると、恐る恐る頭に乗せます。
帽子は不思議とこずえちゃんの頭にすっぽりぴったり納まります。
すると、ぶわっと翼が大きく広がり、ばさっと大きく羽ばたきました。
こずえちゃんが驚く暇もなく、ゴムひもも付いていないというのに自然にふわっとこずえちゃんの体が浮き上がりました。

「それじゃ、気をつけてね」
「はい! ありがとうございます!」

こずえちゃんが笑顔で飛び去ろうとした時、

「お茶のお代わり入りましたよ〜」

店の中からティーポットを持ったネズミが現われました。
不服そうな仏頂面のネズミに、帽子屋は満面の笑顔でねぎらいの言葉を述べます。

「おや、ありがとうヤマネ君」

こずえちゃんはハッとします。
ヤマネと呼ばれたネズミが、ある人にそっくりだったからです。
こずえちゃんは顔を伏せ、思わず叫びそうになった名前をぐっと堪えます。

(待っててね。もうすぐ帰るから……)

こずえちゃんの意思を汲み取ったかのように翼を一層力強さを増し、こずえちゃんを天高くへと押し上げました。

(高志……)

こずえちゃんの瞳に力強い意思の輝きが生まれました。





十分後……

「げほっ! げほっ! ぺっぺっ!」

海岸の砂浜に砂まみれのこずえちゃんの姿がありました。
勢いよく飛び立ったはいいものの、結局途中で制御しきれずに暴走。果ては帽子と分離までしてしまい、顔面から砂に突っ込んだのです。

「も〜、何でこんな目に遭わなきゃいけないのよ〜……」

こずえちゃんは一人ぼやきますが、何の意味もありません。
帽子もすでに、いずこかへと飛び去っています。

「はぁ〜〜……」

こずえちゃんは肺の中の空気をすべて出してしまうくらい深い溜息をつきました。
一時はここから脱出できそうに思えたからこそ、失望もひとしおです。
こずえちゃんはのろのろと立ち上がり、体に付いた砂を適当に払うと、あてもなく歩き始めました。

「はぁ……」

再びの溜息。こずえちゃんは泣きそうです。
せめて少しでも気が晴れたらと、果てしない水平線を広げる紺碧の海へと目を向けます。
ふとこずえちゃんの脳裏に、ある夏の思い出が浮かびました。
友達と一緒に遊びつくしたあの夏の日が、どこまでも遠いことのように感じられます。

(会いたいよ。高志……)

こずえちゃんが恋人の笑顔を思い出し、ふらふらと足を動かしていると、

「ひぅぅ! た、助けてください〜〜!」

前方から叫び声が聞こえてきました。
こずえちゃんが瞳に溜まった涙を袖で拭って顔を上げると、なんと、大きな亀が料理女に追われています。

「ま、待って〜〜」

料理女は一生懸命走っていましたが、なかなか亀に追いつけません。
やがて、

「きゃあっ!!」

砂に足をとられ、転んでしまいました。

「あ! だ、大丈夫ですか?」

亀は思わず料理女に駆け寄って助け起こします。

「あ、ありがとう……」
「いえ、どういたしまして」

二人は笑顔を浮かべました。が、はたと自分の立場を思い出すと、鬼ごっこが再開されます。

「ま、待って〜〜」
「嫌です〜! ボクはスープにされたくありません〜〜!!」

優しいこずえちゃんは亀を助けようと、二人の間に割って入りました。

「え? 私今そんな気力ないんだけど……」

こらこら、ナレーションに話しかけてはいけません。
それにストーリーを進めないと終わりに向かえませんよ。

「もう、わかったわよ。やればいいんでしょやれば」

こずえちゃんは半ばやけになって、乱暴に砂を蹴り上げながら二人の間に割って入りました。
そして言います。これ子供たち、亀をいじめちゃいけないよ。と。

「それ、浦島太郎じゃない?」

失礼、台本を間違えました。
ともかく、こずえちゃんは言いました。

「この亀は許してあげて。こんなに泣いてるんだから」

亀はこずえちゃんの背に隠れて瞳をウルウルさせています。
料理女も忍びなかったのか、素直にうなずいてくれました。

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

亀はペコリと頭を下げて、こずえちゃんにお礼を言いました。

「どういたしまして」

こずえちゃんも、照れながらも嬉しそうです。

「では竜宮城に……じゃなかった、何かお礼をさせてください」
「別にお礼なんて……」

と言いかけて、こずえちゃんは亀に元の世界に戻る方法はないか尋ねてみました。
この際相手が誰、というか何の生物であるかは関係ないようです。必死です。

「うるさいわね!」

亀は言いました。

「それでしたら、ここから北に行ったところにあるお城の王様に尋ねてみてはいかがでしょう。偉い人ですから、きっと何か知っていると思いますよ」

亀の助言に、こずえちゃんは気がかりなことを尋ねました。

「そのお城には、ここからだとどれくらいかかるの?」

こずえちゃんはもう巨大化キノコを持っていません。
普通に歩くしか手段がない今、目的地があまりに遠方では困ってしまいます。

「それならご心配には及びません」

亀はにっこり笑うと、空に向かって叫びました。

「グリフォンさーーん!!」

すると空の彼方から、ライオンの体と鷹の翼を持つ怪物、グリフォンが飛来しました。

(いくらなんでも、これは、どうなの……?)

こずえちゃんは砂浜に降り立ったグリフォンから一歩身を引きます。
ですがそれも仕方のないことでしょう。
何故ならグリフォンの頭は……

「やあ亀ちゃん。何? 俺とデートしたいの? 俺はいつでもオッケーだよん♪」

どう見ても、こずえちゃんの恋人とよく一緒にいるあの人とそっくりでした。

「いえ、この人をお城まで連れて行ってあげてくれませんか?」

亀が前足でこずえちゃんを指し示すと、グリフォンの目がこずえちゃんへ。
こずえちゃんは思わずびくりとしましたが、自分の心に落ち着くよう呼びかけ、軽く深呼吸して、どうにか鼓動が正常に戻すと、

「よろしくお願いします」

笑顔で言いました。少々引きつっているように見えますが、それは小さいことなのです。

「オッケーオッケー♪ かわいい女の子の頼みなら、何だって引き受けちゃうよ♪」

グリフォンは二つ返事で応じてくれました。

「さあ遠慮なく乗った乗った♪」

そう言いながら背をかがめるグリフォンに、こずえちゃんは恐る恐る乗り込みます。

「じゃ、しっかりつかまっててよ」

こずえちゃんがグリフォンの背中の少し硬い毛をぐっと握りこむと、

「レッツゴー♪」

グリフォンの翼が空気を叩き、一気に急上昇しました。

「お気をつけて〜」

眼下で手を振る亀はみるみる小さくなっていきます。
こずえちゃんは叫び返しました。

「ありがとう!」

その声を尾に引きながら、グリフォンは高速で宙を駆け、あっという間に山を飛び越えます。
美しい湖のほとりにたたずむ立派なお城が見えたのは、すぐのことでした。





グリフォンはお城の門から少し離れたところにこずえちゃんを降ろすと、

「んじゃ、まったね♪」

と軽い挨拶だけ残してすぐに飛び立ちました。
こずえちゃんが、何となく焦っているように見えたグリフォンの後姿を見送っていると、

「お前もあいつの仲間か?」

声のした方を振り返れば、薄っぺらいトランプの体の兵士が立っていました。
兵士は鋭い目つきでこずえちゃんを睨んでいます。
しかし体が薄っぺらい上に、スペードの2なので今ひとつ迫力はありませんでした。

(今更どうでもいいけど、やっぱりこの人も……)

兵士の顔も見覚えがありました。剣道部の主将です。
普段はがっしりとした頼りがいのある体つきなのに、配役上今日はとっても頼りがいがありません。
トランプの兵士は持っていたスペードの形を模した槍を突きつけて言いました。

「さあ、おとなしく付いて来い」
「ええ!? な、なんで!?」
「お前もあいつの仲間なんだろう。王様の前でゆっくりと話を聞かせてもらう」

なにがなんだかさっぱりわかりませんでしたが、兵士の剣幕にこずえちゃんは怖くなり、おとなしく付いて行くことにしました。

兵士に連れられお城に入ると、玉座の間へと通されます。
こずえちゃんは王様の顔を見て、

「えええええ!?」

思わず叫んでしまいます。
それもそのはず、王の威厳と風格をそのまま表したような立派なイスに座っているのは、服装こそ荘厳できらびやかなものの、兵士とまったく同じ顔の人物でした。

「静かにしろ! 王様の御前なるぞ!」

そう言ってこずえちゃんを取り囲む兵士たち。
体のマークこそ違えど、顔はみんな同じです。
本人には悪いとは思いましたが、さすがにこずえちゃんも気持ち悪い気分を隠せそうにありませんでした。

「小娘よ、姫をさらってどうしようというのだ?」
「え?」

いきなりの王様の言葉に、こずえちゃんは目を白黒させます。
その様子が、図星をつかれて焦っているように見えたのか、王様は一層眼光を鋭くしてこずえちゃんを見据えました。

「正直に話せ。グリフォンと組んで、うちの姫を誘拐しに来たのだろう」

こずえちゃんはグリフォンの顔を思い出しました。
亀をデートに誘っているくらいですから、お姫様を狙っていてもおかしくありません。
自分のよく知っている姿でも、女の子とずいぶん仲良くしている印象がありました。
誘拐するようには見えませんが、ちょっかいをかけるくらいは簡単に想像できそうです。

「さあ、素直に話せ。そしてやつの居場所を教えるんだ。そうすれば少しは罪も軽くしてやろう」

そうは言われても、もちろんこずえちゃんはなんにも関係ないので話しようがありません。グリフォンが今どこにいるか見当も付きません。

「そ、そんなこと言われても……私、何も知らないし……」
「嘘をつけ!!」

王様が叫ぶと、こずえちゃんを取り囲んでいた兵士たちは一斉に槍を突きつけてきました。

「正直に話せば命は許してやったものを……もう良い! 切り捨てよ!」

こずえちゃんの正面に立っていた兵士が大きく槍を振り上げました。
キラリと光る鋭利な先端は、いやがうえにもこずえちゃんの恐怖を加速させます。
こずえちゃんはそれから目をそらすようにギュッと硬くまぶたを閉ざしました。

(嫌! もう嫌! 夢なら覚めてよ! 元の世界がいいの! こんな世界消えてぇっ!!)

とその瞬間、辺りが急に光を失ったのが、まぶたを通して感じられました。
そぉっと目を開けてみると、どこまでも続く暗闇の中、自分を囲うように無数のトランプが舞い散っていました。
それを見ている内に、こずえちゃんの意識はだんだん遠のいていき……



















こずえちゃんがはっと目を開けると、まず最初に目に入ったのは、見慣れたいつもの天井でした。
枕元では目覚まし時計が聞きなれた音をけたたましく鳴らしています。
目覚まし時計を止めてから体を起こすと、そこはいつもの自分の部屋。

(本当に、夢、だったの……?)

どうにも釈然としないまま、それでも時間は待ってはくれないので、こずえちゃんはいつもの通りに朝食を取り、身支度を整えて、迎えに来た高志君と学校へ出かけます。
その道すがら、こずえちゃんは今朝見た夢の内容を高志君に話して聞かせました。

「ね? 変でしょ?」
「変て言うか、不思議の国のアリスみたいだな」

こずえちゃんはふと、小さい頃に読んだ絵本を思い出しました。

(そう言えば、何回も読み返したっけ)

幼いながら、不思議で独特な世界観に引き込まれたあの頃。
こずえちゃんが過去の思い出に浸っていると、高志君が言いました。

「それ、今度劇団でやってみるか」
「ええ!? ホントに!?」
「ああ、そん時はお前が主役だな」
「えええ!? わ、私が主役なんて、できるかな……?」
「やってみなけりゃわからないだろ」
「う、うん。そ、そうよね。やってみないと……」
「まあその前に、団長に採用されればだけどな」





どうやら今回のお話はこずえちゃんの夢だったようです。
これが劇となり、公開されるのはもう少し先のこと。
その時は劇場でお会いしましょう。

夢と言えばもう一つ。
現実と夢は時としてその狭間を限りなく無にします。
今、皆様が生きているのは本当に現実でしょうか? それとも……?

願わくば、今宵も皆様に良き夢が訪れんことを……




 Fin





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<あとがき>

ど〜もご機嫌ようです。
『四つ葉劇団 第三回公演(?) 不思議の国のアリス』楽しんでいただけましたか?
タイトルを見た瞬間には「おや?」と思われた方もいらっしゃるでしょうが、この『(?)』はつまりそういう意味です。これは第三回公演になるかもしれないけれど、それはどうだかわからない、と。
さて、桃太郎2から空きに空きまくった四つ葉劇団の活動ですが、あの時この提案をくださった方に、今、大きな声で伝えたいです。
書きました! 書き終えました! 約束は守りましたよ! 遅くなりましたが!
かなり儚い希望ですが、伝わっていたらいいなぁと思います。

以上、せめてあの方のお名前くらいはっきり思い出したいなぁと遠い目をしているMでした♪
でわでわ〜♪

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