M 様投稿作品
これより、四つ葉劇団による桃太郎を開演いたします。
ブーーーーー
スルスルスル・・・
昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
「まったく、何でボクがお爺さんなんだ・・・」
「まぁまぁ、いいじゃありませんか。」
「鬼だったら彼をいじめられたのに・・・」
「あんまりいじめちゃ駄目ですよ。」
お爺さんは山に芝刈りに、
「芝刈りなんてしたことないんだけど・・・」
お婆さんは川に洗濯に行きました。
「お洗濯は初めてです。楽しみですね♪」
お婆さんが洗濯をしていると・・・
「洗濯板というのはたいへんですね。・・・あら?」
川上から大きな桃が、どんぶらこどんぶらこと流れてきました。
「とっても大きな桃ですね。誰かの落し物でしょうか?」
いえいえ、落し物ではありません。さっさと持って帰ってください。
「では・・・うんしょうんしょ・・・ふう、重くて動きませんね。」
少し考えた後、お婆さんはおもむろに懐から携帯電話を取り出しました。
ピッピッピッ・・・プルルルル・・・
「もしもし・・・はい、私です。ちょっとお願いしたいことが・・・
はい・・・では、よろしくお願いいたします。」
ピッ、と電話を切ると、舞台袖・・・じゃなかった。
どこからともなく黒いスーツにサングラスの怖いお兄さんたちがやってきました。
「これを運べばいいんですね? お嬢様。」
「はい。お願いしますね。」
桃は無事に家まで運ばれました。
「おやおや・・・ずいぶん大きな桃だねぇ・・・」
「この桃、どうしましょうか?」
「桃なんだからちゃんと食べないともったいないよ。」
「そうですね。」
「というわけで、斧を持ってきてくれないか?」
「はい。」
(ちょっと待てぇ!)
どこかから声が聞こえたようですが、気にしないように。
「はい、持ってきました。」
「おお、これはよく切れそうだ。」
お爺さんがにやりと笑いました。
「それじゃあ、いくぞ! せーのっ!!」
「うわあああああっっ!!!」
斧が振り下ろされる直前に桃が割れ、中から男の子が出てきました。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「駄目じゃないか。ちゃんと桃を割ってから出てこないと・・・」
「オレも一緒に割れちゃいますよ! だいたいなんで斧なんですか!?」
「包丁なんて定番過ぎて面白くないだろう?」
「オレを殺す気ですか!?」
「大丈夫だよ。この斧の殺傷能力はそんなに高くないから。」
「そんなにってなんだ!?」
「まぁまぁ、落ち着いてください。高志さん。」
「おいおい、この子にはまだ名前を付けてはいないよ。」
「あら、そうでしたね。すみません。」
「でも、面倒だから高志でいいか。」
「よくないですよ。この劇は桃太郎です。」
「しょうがないなぁ。では桃太郎にしておいてあげよう。」
「・・・・・・」
お爺さんとお婆さんに育てられ、桃太郎はすくすくと成長しました。
「頭のほうもすくすくと成長してくれればねぇ・・・」
「うぐぐ・・・」
しかし、そんな平和な村に突然鬼が現れました。
「わ〜っはっは♪ 俺たちは鬼だぞ〜♪」
「この村のものは全部頂いていくわよ〜♪」
ずいぶんと陽気な鬼でした。
「うわ〜」 「きゃ〜」 「たすけて〜」
エキストラ・・・じゃなく、村の人たちが逃げ惑います。
「あ〜はっはっは♪ た〜のし〜♪」
(先生、先生)
(何よ? 今いいとこなのに・・・)
(ちゃんと台本通りにしないと・・・)
(はいはい・・・わかったわよ・・・)
「んじゃ、この娘もらってくわよ。」
「きゃ〜、助けて〜、高志〜」
「だから桃太郎だっての!!」
「あ♪ 高志♪ た〜す〜け〜て〜♪」
「・・・もういいや・・・」
「お前、俺たちの邪魔すんのか〜?」
「・・・気は進まないけどな。」
「あっ! なにそれ!? 私を助けたくないの!?」
「あんまり。」
「・・・高志のバカーーーッ!!!」
ドゴッ!! いい感じに右ストレートが決まりました。
「グオッ!?・・・な、なぜ?」
「高志なんかもう知らないッ!!」
娘は走り去ってしまいました。
「コホン・・・というわけで、娘を返して欲しかったら鬼ヶ島まで来ることね。」
「さらばだッ!!」
鬼たちも去っていきました。
「大変なことになりましたね・・・」
「まったく・・・高志くんが不甲斐ないから・・・」
「オレのせいですか?」
「これはもう、君に行ってもらうしかないな。」
「はいはい、わかりました。」
「うんうん、素直でよろしい。」
「では、このきび団子を持っていってください。」
「これってもしかして、せりざ・・・お婆さんの手作りとか・・・?」
「きび団子の本場、岡山から取り寄せました。とってもおいしいですよ♪」
「はぁ・・・あ、ありがとうございます・・・」
「これも持って行きたまえ。」
「刀ですか。」
「鬼退治には必須だからね。」
「ありがとうございます。」
「それでは、いってらっしゃい。」
「気をつけてくださいね。」
「はい。いってきます。」
さて、桃太郎が鬼ヶ島への道を歩いていると・・・
「あうあうあうあうあ〜〜〜」
犬の声が聞こえてきました。
「あうあうあうあうあ〜〜〜」
「これじゃ犬じゃねぇよ・・・」
「は、恥ずかしいです〜〜〜」
「神崎。セットに隠れてないでさっさと出てこいよ。」
「ひうっ! で、でも、でも〜〜〜・・・」
「ほら、これやるから。」
「もぐもぐ・・・わぁ、とってもおいしいお団子ですね♪」
「産地直送だからな・・・」
犬をお供にした桃太郎が再び鬼ヶ島に向かって歩を進めていると、猿の声が・・・
「オス! おら、鉄太郎。」
「・・・猿は名乗ったりせんぞ。」
「細かいことは気にしちゃ駄目なんだな♪」
「あ〜、そうかよ。」
「だけど、何でおいらが猿なんだ?」
「猿っぽいからだろ。」
「む〜〜、高志のほうが猿なんだな。」
「お前、けんか売ってんのか?」
「というわけで、勝負するんだなッ!!」
「勝負?」
「あそこの木に先に着いたほうが勝ちッ!!」
「勝ったら桃太郎、負けたら猿ってわけか?」
「その通りッ!!」
「よっしゃ、やってやろうじゃねぇか。」
桃太郎の座を賭けた、無制限一本勝負の始まりです。
「それではいきますよ。位置について、よ〜い、ドンッ!!」
「うおおおおおっっ!!」
「ぬうううううっっ!!」
「この勝負、負けられねぇっ!!」
「高志には絶対負けないんだなっ!!」
両者一歩もゆずりません。このままでは引き分けか? と思ったその時!!
(止むを得ん。これを使うか。)
「おい! チビ!!」
「チビ言うなッ!!」
「これやるぞ。」
そう言うと、桃太郎は猿の目の前にきび団子を放りました。
「おお! うまそうな団子♪」
猿が転がっていくきび団子を追って行きます。
「隙ありッ!」
「あーーーッ!!!」
猿がきび団子に気を取られているうちに、桃太郎がゴールしました。
「う〜〜〜、高志はずるいんだなあむあむ・・・」
「落ちたもの食ってる時点でお前は猿だ。」
「う〜〜〜〜〜・・・」
「やりましたね。芳野先輩。」
「うおっ!? お前、いつの間に!?」
「少し後ろを付いてきただけですが・・・」
(そういえば、こいつも足速いんだっけな・・・)
「どうかしましたか?」
「いや・・・なんでもねぇ・・・」
犬に続き、猿もお供にした桃太郎。順調に旅を続けていると、雉の声が・・・
「あ、あの・・・よ、芳野・・・くん・・・」
「ん? 塚原じゃないか。どうした?」
「あ・・・うん。あの、あのね・・・その・・・」
「おっ! そうか。塚原もきび団子食いたいんだな?」
「えっ!? えと・・・その・・・うん・・・」
「ほら、うまいぞ。」
「あ、ありがとう。・・・もぐもぐ・・・おいしい。」
「よし、これでそろったな。」
犬、猿、雉の三匹をお供にした桃太郎。鬼ヶ島はもうすぐそこです。
その頃・・・
「ううっ・・・高志なんて、高志なんてっ!! うわ〜〜〜ん!!」
「こ、こずえちゃん。いい加減に泣き止んでよ。」
「若者はいいわねぇ。青春してて・・・」
「先生、舞台袖でお酒を飲むのはあまりよくないことかと思いますが・・・」
「ばれなきゃいいのよ♪ ばれなきゃ♪」
「やれやれ、ここは騒がしいな・・・」
お見苦しいものを見せてしまったことを深くお詫び申し上げます。
さて、こちらはすでに鬼ヶ島に着いたようです。
「ここが鬼ヶ島か・・・」
「なんだか不気味ですねぇ・・・」
「うまい食い物ないのか?」
「・・・こ、怖いです。」
「ふぁ〜ふぁっふぁっふぁっ、よぉくここまで来れたわにぇ〜」
「わ、若葉ねーちゃん・・・ろれつ回ってないぞ・・・」
(高志、すまん。)
(なるほど、そういうことか。)
「皆の者〜、曲者じゃ、であえであえ〜〜」
「ねーちゃん! それじゃ、時代劇!!」
とにかく、鬼がいっぱい出てきました。
「ふっふっふっ・・・腕が鳴りますな♪」
「ボ、ボクも頑張ります。」
うおおお、と鬼が一斉に襲い掛かってきました。
「全員返り討ちなんだな!!」
「い、いきますっ!!」
猿と犬が鬼たちを蹴散らしていきます。
「あれ? 塚原は参加しないのか?」
「私、けんかできないから。」
「でも、これ劇だぞ。」
「う、うん・・・でも、あんまり激しく動くの得意じゃないから・・・」
「まぁ、いいけどな。」
程なくして、有象無象が一掃されると、
「つっかえない連中ねぇ〜。しょ〜がにゃいからわらしがでますか〜」
鬼はそう言うと金棒を出してきました。
「今宵の金棒は血に飢えているのよ〜」
ぶぉんぶぉん、とすさまじい音を出しています。
(おいおい、この重量感。まるで本物じゃねぇか・・・)
「高志〜、覚悟〜!!」
「うおっと!!」
ガキンッ!! 金棒が床にぶち当たります。
「えっ!?」
「ちっ、よくも避けたにゃ〜」
「ちょ、ちょっと待て! それ、本物!?」
「ふっふっふ・・・金属バットを改造したわらし特製の金棒よ〜ん。」
「聞いてないぞ! そんなの!!」
「あっ! こら!! 逃げるにゃ〜!!」
「芳野先輩!」
「よ、芳野くん、頑張って・・・!!」
「高志ッ!! 逃げるなんて男らしくないぞッ!!」
「く、くそっ!! 若槻!! お前も見てないで何とかしろ!!」
(高志、お前のことは忘れないぞ・・・)
「てめぇ!! 覚えてろっ!!」
桃太郎に隙が出来てしまいました。
「へっへ〜ん♪ もりゃった〜♪」
「うっ、うわーーーー!!!」
キィンッ! 桃太郎はとっさに抜いた刀で金棒を受け止めました。
「えっ? あれっ?」
「うぬ〜〜、こしゃくな〜」
「もしかして、この刀も本物?」
「そ、それはボクの玄鋼!?」
「そういえば見覚えがあるような・・・」
「どうしてここに!?」
その理由は・・・
「ふっふっふ・・・」
なんか笑ってる人がいますが気にしないでおきましょう。
「と、とにかく、それを使えば金棒くらい真っ二つに出来ますよ!!」
「真っ二つって!? そんな技術、オレにあるわけ・・・」
「へぇ〜、面白いじゃない。それは是非やってもらわないとねぇ〜」
「ねーちゃん! 目がマジだよッ!!」
「じゃあ、最後の勝負、いくわよっ!!」
(くそっ! やらなきゃやられるっ!! こうなりゃやけだっ!!)
「いくぞっ!! マンガで憶えた、奥義『天翔○閃』!!」
ズバシーンッ!! なんと! 金棒が見事に真っ二つ!!
「き・・・切れた・・・?」
切った桃太郎自身もびっくりしています。
「くっしょ〜、今日にょところは引き分けにしといてあげりゅわ〜」
「お、覚えてろ〜」
(さ、若葉先生、さっさと戻って酔いを醒ましましょう。)
(え〜? まだ飲み足りにゃいのに〜・・・)
鬼たちは引き上げていきました。
「ふ〜〜・・・終わった終わった。」
「芳野くん・・・こずえちゃんは?」
「こずえはどこだ〜?」
「出番なのに・・出てきませんね。」
舞台袖から声が聞こえます。
「ふ〜んだ。どうせ高志は助けに来てくれないんでしょ〜?」
「お、おい! こずえ! お前が出てこなきゃ終われないだろ!」
「い〜も〜んだ。」
「よくねぇ! ったく! あんまり世話かけんな!」
「あっ!? ちょ、ちょっと、離しなさいよ!!」
「離したらお前を連れてけないだろ!」
桃太郎が娘の手を引っ張っていきます。
「お爺さん、お婆さん。ただいま戻りました。」
「おや、お帰り。」
「無事で何よりですわ♪」
「鬼はちゃんと退治してきたかい?」
「それが、その・・・逃げられちゃいました・・・」
「ふむ、そうか・・・まぁ、いいだろう。」
「え? いいんですか?」
「うん。君が立派になって戻ってきたからね。」
「うふふ♪ 確かにご立派になられましたわね。」
「え?・・・立派・・・ですか・・・?」
「信頼できる仲間もいるし、二人の仲もいっそう親密になったみたいだしね。」
「え?・・・あっ!!」
桃太郎は手をつなぎっぱなしだったことにようやく気づき、あわてて手を離しました。
「え〜と、その・・・ご、ごめん・・・」
「高志がいやじゃなければ・・・別に・・・」
「これからが楽しみだな♪」
「そうですね♪」
二人はますます真っ赤になるのでした。
めでたしめでたし♪
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<あとがき>
作者(以下:作)「はい♪ そういうわけで、めでたく初公演となりました四つ葉劇団。
ストーリーと配役だけ決めて台詞は全部アドリブで、という感じにしてみましたが、楽しんでいただけましたでしょうか?」
高志(以下:高)「なんなんだこれは! なんだってこんなことになってんだ!?」
作「おや、高志くん。どうしたんですか? 大声を出して・・・」
高「どうしたもこうしたもあるか!! 何でこんな劇やってるんだオレはッ!?」
作「いや〜、話せば長くなるんですが。
実はあるゲームのキャラで桃太郎をやっているSSを読んだんですよ。
これなら自分にもできるかな、と思って少しストーリーを考えました。
そしたらなんだか面白くなりそうだったんで、これは書かねばなるまい!
・・・って勢いで書き上げたんです。」
高「勢いだけで書くなぁッ!! こんなの読者が喜ぶわけないだろッ!!」
作「何を言うッ!! 自分が楽しく書けりゃあそれでいいんですッ!!」
高「このくそ作者ッ!! そこになおれッ!!」
作「なッ!? ど、どうしてまだ君が玄鋼を!?」
高「問答無用ッ!! 『九頭○閃』ッ!!!」
作「ギャーーーッ!!」
ドバシーーーンッ!!
作「か・・・回避・・・ふの・・う・・・ガクッ」
高「やれやれ、これで平和が戻ったな。
さて、ここまで読んで下さった方がいましたら、本当にありがとうございます。
ダメ作者に代わって厚く御礼申し上げます。
ヤツにはしっかり反省させておきますので、ご安心を。
それでは、またどこかでお会いしましょう。ご機嫌よう。」
作「I`ll・・・be・・・back・・・」
※実際は読者様に喜んでいただけるよう努力しております。
誤解のないようお願いいたします。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――