紅陽華 様投稿作品



「みんなおはようさん」
いつものメンバー四人にまとめて朝の挨拶を送る拓也。
「ああ、おはよう」
「みどーっ、おっはよー♪」
「おはようございます、御堂さん」
「おはよう」
潤、ひなた、美和、とばりも挨拶を返す。
「あっ、そうそう。実はな、今日は新しくバイトの人が入ってな」
「新しいバイトの人?」
「ああ、この三人や」
拓也がそう言うと………
「じゃーん! どうもー! 今日からこのペットショップで働く事になった、金沢有紀でぇーす! みんな、宜しくぅっ!!」
「……………」
いきなりの、超明るい雰囲気での登場に、拓也を除く全員が目を丸くして黙り込む。
そして、その後ろから、
「あ、あの……宜しくお願いします」
シュウが有紀の立振る舞いに呆れながらも現れてくるのだった。








FRIENDSにようこそ!








今日は喫茶店での仕事。一足先に着替え終えた潤と拓也が少し話をする。
「まさか、有紀ちゃんがなぁ………」
「ああ。有紀ちゃん、オレに『ここでシュウと一緒に働かせてください』っていきなし頼み込んできたんや」
「へぇ…………」
何故有紀がここで働きたいと拓也に頼んだのか、潤には分かる。
それは、有紀が拓也に惚れているからだろう。
幾ら鈍い潤でも、それは直ぐに気付いた。
「おっまたせー」
「お兄ちゃん、御堂さん、お待たせ」
丁度、ひなた達三人が着替え終わった。拓也は有紀がいない事に気がつき、
「あれ、有紀ちゃんはまだなん?」
「そろそろ出てくるわよ」
とばりが簡単に答え、そして――――。
「すいません、着替えるの送れちゃって………」
有紀が現れてきた。とばりとは色違い――黒の部分が青――の、メイド風のウェイトレスコスチュームを着込んだ
有紀は、まさにどこかのお金持ちの家に仕える優秀な使用人に見えた。
「……うわぁ……」
暫しその姿に見とれる男性二人。
「あ、あの、拓也…さん。―――似合ってます?」
有紀がそう聞いてくると、
「おお! 、勿論やないかいっ! メチャクチャ可愛いで! いやホンマ!!」
「そうですか―――。きっと拓也さんの服を選ぶセンスが良いお陰ですよ」
「いや〜、そう言われると照れるわぁ」
そこで、有紀は辺りを見回して、シュウが居ない事に気付いて、
「あれ…? シュウはまだお着替え中ですか?」
「ああ、そろそろやと思うけど………」
と、そこへ、
「あっ、シュウー、何してるの?」
ひなたがシュウを見つけた。彼は、出てくるのを躊躇っているようで、隠れながらモジモジしている。
「あぅぅ………」
「シュウちゃん。恥ずかしがらなくていいよ? ほら、そんなところで隠れてないで、ね」
美和が優しく言うと、渋々シュウが出てきた。
「わぁー………」
「………………」
ひなたが感嘆の声を上げ、とばりは言葉を失った。それもその筈、シュウの服装は………
「おい、御堂。アレもお前が選んだのか?」
「――――当然やろ?」
明らかに執事の服装だった。潤と拓也の服装とは、色もデザインもかなり違う。
シュウの女の子っぽさと幼さが入り混じり、その姿はミスマッチ的な感じがしながらも、シュウにピッタリに見える。
その姿に見とれる有紀。
「……あの、ご主人様……?」
「…………いい」
「はい?」
「シュウ可愛いぃ〜〜〜〜〜!!!」
「きゃあっ!」
一目も憚らず、シュウに抱き付く有紀。そしてその行動に慌てるシュウ。
「あ〜、二人とも。そろそろ開店の時間やけども………」
呆れ顔で言う拓也。
「あっ、ごめんなさい拓也さん」
「…………まぁ、気持ちは理解できるけどな。その服もオレが選んだんやで?」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いやいや、お礼は二人の働きで返してもらうで」
「はい。それじゃ頑張ろっ、シュウ」
「……はいっ、頑張ります」
そう言い合って意気込む二人を見て、潤は、
「……何か、初めてここで働き始めた美和みたいだな」
「うん、そうだね」
「それじゃ、あたし達も負けてられないわね」
「うんっ、がんばろーっ!」
こうして、今日もFRIENDSの喫茶店は開店するのだった。



「あっ、いらっしゃいませっ、何名様ですか?」
シュウは、今日最初のお客様を見つけ、近寄る。
緊張しながらも、出来る限りのスマイルで話しかけたのだが………
「あ……三名です」
「は、はい。御煙草は吸われますか?」
「……いいえ」
「じゃあ、禁煙席にお連れいたしますね」
何故か、三人の男性客は朝から暗い。三人とも低血圧なのだろうか?
「そ、それでは、ごゆっくり………」
そういって三人から離れた瞬間、
「…………はぁぁ……」
「!」
がーん!!!
(た、溜息吐かれた……!)
シュウは今にも泣きそうな顔で、他の男性客を席へ連れて行った後の有紀に、
「ご主人様ぁ〜〜」
「ど、どしたのシュウ?」
「わたし、お客様に嫌われてるみたいですぅ〜………」
「え? 何で?」
「だって、さっき溜息疲れたんです……」
そう言って、先程の男性客の方を見ると、
「はいは〜い、お待たせだよっ。それで、ごちゅーもんは?」
ひなたが注文を聞きに来てた。潤達は当たり前だから気にしないが、お客様相手にタメ口を聞くひなたに、二人はドキッとする。
しかし、三人は、
「じゃあ、このツナサンドと………」
と、笑顔でメニューを頼み、それが終わって、
「それじゃあ、ちょっと待っててね♪」
とひなたが言うと、三人は満面の笑みで、
「ありがとう。応援してるよ」
「えへへ〜〜♪」
「!!」
ががーーん!!!!
「ひなたちゃん、褒められた…タメ口だったのに…………」
有紀が呟く。
「ひっ、酷いですっ! 男女差別ですぅ〜〜!!」
「わっ、ちょっ、シュウ……」
「もうっ、何泣いてるの! 今は仕事中よっ!!!」
「ひぅっ!」
とばりの一喝に黙るシュウ。
「えぐっ…だってぇ、とばりおねえちゃぁん………」
「はぁ……仕方ないわね。どうやら説明しないといけないみたいね」
「は? 説明って………?」
とばりの発言に首を傾げる有紀。そして、とばりの説明が始まった。

とばりの説明によると、この喫茶店では女の子のウェイトレス姿を目的に来店する男性客が多い。
特にひなた、とばり、美和。この三人のファンクラブが秘密裏に結成されており――ひなたを除いて他のメンバーは
全員その存在に気付いているのだが――その三人への愛は深く、大きい。
何でも、三人の誕生日の日には、お祝いのプレゼントも贈っているのだとか。

「じゃあ、つまりあの三人はとばりちゃん達のファンクラブの人で、案内されたのがシュウだったから嬉しくなくて
溜息ついて、で、注文聞いてきたのがひなたちゃんだったから笑顔になって、応援のメッセージまで言ったって事?」
「まぁ、そういう事になるわね。分かった、シュウ? 別にアナタが悪いワケじゃないの」
「う、うん…………」
何とか泣き止んだシュウに、とばりは優しく諭すように言う。と、そこへ、
「いらっしゃいませ」
今度はOLらしき女性二人が来た。潤が禁煙席へと連れて行く。
「チャンスよシュウ。女の人なら、きっとシュウの事褒めてくれるわよ?」
「うん、わたし、頑張るっ」
シュウは涙を服の袖でごしごし拭く。
暫くして、「すいませ〜ん」の声を聞いて直ぐにOL二人の元へ向かう。
「お待たせしました、御注文をどうぞ」
「えぇっと………それじゃあ、私はハムとチーズのサンドイッチと、コーヒーを」
「じゃあ、私はテーブルパンとジャム&マーガリンセット。ジャムはストロベリー、それと飲み物はカフェオレで。
あとサラダも頼めるかしら?」
「はい、それでは確認致します…」
ひなた同様、文字を書く事が出来ないシュウは、聞き間違いが無いか確認する為、二人が言った注文を繰り返す。
しっかりと、コーヒーは食後に持ってきた方がいいかどうかも聞いた。
「……以上で宜しいでしょうか?」
「はい。ところでアナタ……男の子、よね?」
OLの一人が聞く。
「えっ? はい。ご主人様と一緒に、今日からこのお店で働く事になったんです」
「そう。……頑張ってね」
「……は、はい!」
シュウは注文を厨房に行って言った後、有紀ととばりの元へ。
「ご主人様、とばりおねえちゃん、わたし褒められちゃった♪」
「良かったね、シュウ」
有紀に頭を撫でられ、更にご機嫌になるシュウ。
「はいはいそこまで。二人とも仕事に集中しなさいよね」
「「はーい」」


時間は、午前九時。
「すいませ〜ん」
「あ、有紀ちゃん頼むわ」
「はい」
拓也に促され、声を掛けた方へと向かう有紀。
「お待たせしました、ご注文は………」
有紀が一瞬固まる。その席に座っていたのは………
「よっ、有紀」
「初日早々、頑張ってるねぇ〜」
四人とも、大学の有紀の友達だった。女子三人に、男子が一人。
「あ、アレ? 何でみんなここに………?」
「え? あたし達一応、このお店の常連さんだけど?」
「今日は講義が休みだろ? だから、今日はここで朝食取ろうってみんなで決めてさ」
「で、来てみたら、有紀がここで働いてたんだよね。驚いた〜」
「ねぇねぇ、ところでさ」
友人の一人が有紀に聞いてくる。
「あの人ってさ、もしかして有紀の彼氏?」
友人が指した指の先には、拓也の姿が。
「えっ、いやっ、そのぉ………」
まだ正式に付き合ってもないし、自分の想いも、まだ拓也に告白していない。でも、有紀は拓也が好きだ。
だから、彼氏ではなくても、そう聞かれたら、やっぱりしどろもどろになる。
「あぁ〜、顔赤くなってるよ〜。そっかー、あの人が有紀のねぇ〜」
「ちっ、違うってば! まだ告白もしてないし……」
「へぇ〜、じゃあの人の事好きなんだ〜〜」
「……もうっ、ふざけてないで、注文は?」
「はいはい、っと」
これ以上聞くのは無理だと悟ったのか、友人達は有紀と拓也の事についてはそれ以上追及せず、大人しく注文する品を
言うのだった。


時間は昼過ぎ。大体この時間帯は潤達の休憩時間兼昼食時間となる。
「おーい、潤。そろそろ休憩してもええでー?」
「分かった。―――ひなた、美和」
潤は、ひなたと美和を呼んで、拓也から休憩が許可された事を教える。ひなたはいつもどおり「ごはんごはん〜♪」
と嬉しそうだ。
ついでに、とばり、シュウ、有紀も呼ぶ。
「あっ、私はまだ仕事します」
「え? でも、ご主人様………」
シュウの心配そうな眼差しに、有紀は、
「私は大丈夫だから。シュウはみんなと一緒に、先にお昼食べててもいいよ」
「…………はい」
「それじゃあ、着替えたらいつもの公園でお弁当にしようね」
美和が言った。
そして、五人は着替え終わり、喫茶店から出て行くのを見送ると、
「さぁ〜て、拓也さんのお手伝いお手伝い〜っと♪」
どうやら、有紀の目的は拓也のようだった………


「ところで、今日は他のみんなはどうしとるん? やっぱ仕事やらなんやらか?」
有紀は仕事中、拓也にそう聞かれた。
「ええ、ケンタ君とセイヤ君は、お隣の『SMILEY』のお手伝いしてます」
「アレ? 病院の方は?」
「今日はお休みです。お姉ちゃん、短大の方に行ってますから―――、お葬式で」
「葬式?」
拓也が聞くと、有紀はええ、と答えて、続ける。
「短大に、耳っ子が飼われてたんですよ。幼い子が三人いて、その子達を纏めてた年長の猫耳っ子の男の子が、
昨日亡なったって連絡が届いて…………」
「……そうなんか…………」
拓也がトーンを落として、悲しそうに答える。
そして、有紀はこう言った。
「普段は気にしてないのに……お姉ちゃんが医療に携わってる所為かな? 時々ふっと思い出すんですよ―――、耳っ子は、
私達より、ずっと早く死んじゃうって事。大抵みんな、人間で言えば十代後半ぐらいで死期が近づくって、お姉ちゃんが
言ってました」
「…………………」
拓也は黙り、有紀は続ける。
「ひなたちゃんも、とばりちゃんも、まゆみちゃんも、ケンタ君にセイヤ君…それに、シュウも……私達と、同じ時を
歩めないですよね………でも」
「…………でも?」
「でも、私思うんです。いつか必ず、別れの時が来るのは当たり前。だから、その間に出来る限り、
自分の愛す、自分を愛してくれる耳っ子と、沢山のたくさんの、それこそ、別れの辛さに打ち勝てるくらい、
沢山の思い出を作っていきたいって―――――」
拓也は、黙って有紀の話を聞いていた。
「あっ、す、すいません。仕事中にこんな話持ちかけて………」
「いや、構わへんよ。その考え方、間違ってないと思うで?」
「そう、ですか?」
「ああ」
拓也は断言した。有紀の言っている事を、今まさに実行している人間を知っているからだろう。
ある犬耳っ子を愛し、彼女の死後もう一人の、自分を愛してくれる犬耳っ子と再開し、
最終的には自らの想いを諦めてまで、自分を好きでいてくれる犬耳っ子と一緒に暮らすことを決めた男性の事を。


時刻は午後一時――――。
「はいはーい、今行くよ〜!」
「少々お待ちくださいませっ!」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
喫茶店は、たまにあるように、恐ろしい程の盛況ぶりをを見せていた。
しかし、いつもと違うのは、男性客だけでなく女性客も多い事だ。
「ど、どうなってるの………?」
有紀が呆然としていると、
「きゃあっ!」
「うわっ!……ごめんシュウ、大丈夫?」
シュウとぶつかりそうになり、謝る有紀。
「はい、大丈夫です」
「そう、良かっ………っ!?」
その時、有紀の全身に超強烈な視線が突き刺さる!
(な、何のなのよコレはっ……!)
「あっ、いた! 有紀さん、こっちです!」
有紀は美和に声を掛けられ、まるで針のそうな視線に耐えつつ、美和達の元へ向かうのだった。


「いい? あたし達ウェイトレスは男性客の相手だけすること。分かった? 女性客は、全員ウェイターが相手するから」
「えっ…いや、何で?」
とばりの言った事が理解できず、有紀が聞く。
「はぁ……アンタ、あの強烈な視線を受けたでしょ」
「……あの視線、一体何なの?」
とばりは溜息を吐いて、説明を始める。
「前にも言ったように、この喫茶店は私達の制服姿を目的で来る客が多いの。だから、そういう時は接客は全てあたし達
ウェイトレスだけでやって、ウェイターは全員お皿の中継とかをするんだけど………」
「何でか分からないけど、今日は女の人も多いんだよねー」
とばりの説明に、ひなたが疑問を付け加える。
「そういえば、確かに……何でだろ?」
「多分それは、常連の若奥様に午前中に来たOLの所為ね」
「えっ、ええ?」
もはやワケが分からなくなってきた有紀。とばりは説明を続ける。
「何でだか知らないけど、最近徐々に、潤や御堂を始めとするウェイター連中目当てに来る女性客も増えてきてね……潤は
とにかく、御堂の何処がいいのか全然理解できないけど」
そんな事無いよ! 拓也さんは魅力の塊だよ!!
と言いたかった有紀だが、色々と話が面倒くさくなりそうなのでやめた。そして心の中で拓也に三十回以上謝る。
「その女性客には、常連の若奥様もいてね……シュウがその人達に料理を持っていくの、あたし見たのよ」
「だから?」
「はぁ、分からない? シュウみたいな女の子っぽい、しかも執事の格好をした、あたしの次に可愛らしいウェイターに
接客されたら、女性客はどうすると思う?」
その言葉を聞いて、
「それは…………あっ!」
「ああ、そっか!」
「ふぇ?」
ようやく彼女達は、とばりの言いたい事が分かった――――ある一人を除いて。
「そう言う事。女性の話は広がりやすいのよ」
「でも、シュウ……」
「それなら心配無いわよ。潤達がしっかりサポートするから。アンタ少し心配性よ? もしかして……ショタコン?」
「なっ、何でそうなるのよ! 自分の耳っ子の心配しちゃ悪い!?」
「そ、そこまで怒ること無いじゃない………とにかく、あたし達は男性客の注文を聞いたり、食器を下げればいいの。
間違っても女性客の方に行っちゃダメよ? あの怨念込めまくりの視線で呪い殺されるわよ」
「……それは、大袈裟だと思うけど……」
美和がボソッと呟く。
「さて、お喋りはここまで。仕事に戻るわよ!」
「うん」
「うんっ」
「はい」


こうして、喫茶店のスタッフは、全員異性の客の相手をする事になった。
で、ウェイター達の方はというと………
「お待たせいたしました。ご注文をどうぞ」
シュウは、一人の若奥様の注文を聞きに来た。
「あっ、えっとね……じゃあ、このショートケーキとダージリンティをお願いね」
「はい、かしこまりました」
「小さいのに大変ね。頑張ってね」
「はいっ!」
若奥様に満面の笑みで褒められ、シュウも満面の笑みを返す。
シュウは厨房まで行き、若奥様の注文を言った後、すぐに戻っていく。
「…ふぅ……何だか、しんどい………」
誰にも聞こえないように、そう呟くシュウ。原因は女性客の視線だろう。
そして、またウェイターを呼ぶ声を聞いて、シュウは直ぐにその方へと向かう。
「お待たせいたしました。それで、ご注文は?」
その席にいたのは、一人の女性と、彼女のパートナーと思われる、シュウより年下の猫耳っ子の少女。
猫耳っ子が、
「えっとね、ご主人様はミートスパゲッティとアイスココア! あたしは、このチョコパフェ!」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
「うんっ、ありがとっ!」
猫耳っ子にお礼を言われ、また嬉しい気持ちになるシュウ。それにしても、何故彼女のご主人様は、自分で自分の注文を
言わなかったのだろう?
「………あ」
シュウは思い当たる事を思い出した。
あの女性は聾唖者なのだ。多分、声が出せないのか耳が聞こえないのだろう。
だから、あの猫耳っ子は恐らく自分のご主人様の通訳などをしてるのだ。だから代わりにご主人様の分の注文を言ったのだ。
「わたしより幼いのに、ご主人様の為に頑張ってるんだ……」
よしっ、わたしももっともっと頑張ろう。そしてご主人様に褒めてもらうんだ!
そう思いながら、シュウは厨房へと向かうのだった。

ちなみに、潤の方はというと――――。
「お待たせ致しました。それでは、ご注文をどうぞ」
女性客――恐らく、新社会人――にそう聞いた。
「えっ!? えっ、えっと、その、あのっ………」
女性客は顔を赤くして、しどろもどろになりながらも、
「あのっ、えっと、こ、このチキンカツサンドとっ、も、ももモカをお願いしますっ!」
「はい。えっと、コーヒーは食事の後に出しましょうか?」
「えっ? あっ、いや、さ、ささささ、サンドウィッチと一緒でお願いします!!」
「はい、かしこまりました。では、少々お待ちくださいませ」
「いっ、いえっ!! す、すいませんっ!」
「いえ」
何でこの人、俺が注文聞いてるだけなのに緊張して、しかも謝ってんだ?
と、疑問符が頭に浮かびまくりの鈍感な潤なのであった。

そして、御堂はというと――――。
「それでは、食器をお下げしますね」
「はい、どうもありがとう」
一人の茶髪で漫画でよくあるような細目の犬耳っ子ウェイターが、食事を終えた若奥様三人のテーブルの上の食器を下げていく。
と、そこに料理を運んでいく御堂の姿が。
「はい、こちら、当店自慢のイタリアンハンバーグになります。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい。どうもありがとう、店長さん♪」
「いやいや、お礼を言うのはこちらの方ですよ。お客さんあっての当店ですから」
そう言って、御堂は女性客の席を離れていく。
「………なっ!!?」
犬耳っ子は、その席を見て、それこそ細目がパッチリ開くぐらい驚いた。
そのテーブルには、女子大生と思われる女性客二人に、兎耳っ子が二人。
そしてテーブルの上には、所狭しと料理の皿が置かれてあった。もはや、完全に他に何も置けないくらい。
「ちょっ、ちょちょちょ、店長!?」
「ん、何や?」
犬耳っ子が先程の女子大生と兎耳っ子の席を指差すと、
「あ、アレ、どういう事ですか?」
その問いに拓也は、
「ああ、アレな。なーに、とばりの真似して俺がお勧めですって言ったらな、次から次へと注文してくれはったんや」
「……………」
「何や、店長をそんな目で見てからに。俺はぶっちゃけ全部お勧めやから勧めて、それをお客さんが頼んだ。普通の事やないか」
「……………」
さらっと、罪悪感の欠片も感じていない店長の発言に、言葉の出ない犬耳っ子。
「いやぁ、いつもは潤にキツイツッコミかまされるけど、俺だってやるときゃやるで! 真の天才は、影でその実力を発揮
するもんや!!」
「………そ、そうですね。店長、ホントに天才ですね」
「そうやろ? そう思うやろ!!」
「はは………」
もはや人目も憚らずその場で高笑いしそうな御堂店長に、犬耳っ子ウェイターは苦笑いするしかなかった。


次に、ウェイトレス達はというと………
「それでは、ガトーショコラがお一つ、ストロベリーパイがお一つ、アイスコーヒーがお二つ。以上で宜しいでしょうか?」
「はい」
「それでは、少々お待ちくだ……」
「あっ、ちょっと待って。君って新人さん?」
若い男性客から注文を聞いて立ち去ろうとすると、有紀はそう言われて呼び止められた。
「えっ、はい、そうですけど」
「ふーん、その割には、随分とすらすら挨拶できたり、注文を聞けたり出来るね? もしかして、
こういう仕事は前にやった事あるとか?」
「はい、一応以前も喫茶店で働いてた事がありますけど……」
「そっか、通りでね。美和ちゃんがまだ新米だった頃は、とてもたどたどしくてね。君はそんな感じがしないから、
もしかしたらと思ってね」
「へぇ、そうだったんですか……っと、それでは。ちなみに、私の名前は金沢有紀です。よろしくっ♪」
「ああ、よろしく」
そう言って、有紀は厨房に注文を書いた紙を届けようと振り向いて―――。
「はぁ………」
「きゃあっ! み、美和ちゃんいたの? もしかして、さっきの話聞いてた?」
「…………」
無言だが、この落ち込み様では恐らく立ち聞きしていたのだろう。
「もうっ、過去の事なんか気にする必要無いよ。今はちゃんと仕事できてるんでしょ?」
「……はい…」
「だったらいいじゃん。一緒に頑張ろっ、ね?」
「……はい、頑張りますっ」
「その調子その調子」
そう言って厨房に向かう有紀。とそこで、丁度シュウも厨房へとやってきた。
「あっ、ご主人様」
「シュウ、そっちはどう?」
「何だか、あっちこっちから見られてるみたいで、しんどいですぅ……」
「はは、そっか。私もだよ………」
お客さんから見られるというのは、やはり新人の二人にはかなりのプレッシャーになっているようだ。
「まっ、でもそんな事でへこたれてらんないよ」
「分かってます。頑張りましょう!」
「うん!」

その後、有紀が厨房から戻ってみると――――。
「……ん? 何だろ、やけに騒がしいような……」
その騒がしい方へと行ってみると………、
「はいコレ。あとコレもね」
と、とばりが食器を次から次へと、灰色の髪の猫耳っ子ウェイトレスに渡している。
「ひぇぇ〜、とばりちゃぁん、もう私持てないよぅ〜……」
「何よ、あたしより長くここに勤めてる割にはなっさけないわねぇ。潤はその倍は持って運んでたわよ」
「私と潤さんを一緒にしないでよ………」
「文句言わない。はい次っ」
そう言って、とばりはまた一つ、また一つと食器を重ねていき………
「…………マジ?」
それはそれは、見事な食器のタワーが完成した。コレでよく倒れないものだと有紀は感心する。
そして、何時の間にか周りの御客さん達から何故か拍手喝采が。
「いやぁ、とばりちゃんいつ見ても上手いね!」
「いえ、それ程でも………ちょっとアンタ、そこに突っ立ってないで、それ厨房まで運びなさいよ」
「むっ、無理無理! 倒れそうで怖いもん!」
「大丈夫。そう簡単に倒れないから。なんたってこのあたしが積み重ねたんだからね♪」
「うぅ……分かったよぅ。倒れて大惨事になったら、とばりちゃんの所為だからね」
「いいわよ。ま、アンタがわざと落としでもしない限り、100%有り得ないけどね」
「そんな……わざと落とすような事しないよ………」
そう言って、猫耳っ子はバランスを保ちながら厨房へと向かうのだった。
「はは…私絶対あんなのやりたくないな………」
心の底からそう思った有紀だった。

「それで、ごちゅーもんは?」
「ええっとね、じゃあ、このイタリアンスパゲッティと、メロンソーダ」
「うん。それじゃあ、ちょっと待っててね♪」
そういって、男性客の席から離れるひなた。そして厨房に行って、
「三番テーブルのお客さんにイタリアンスパゲッティとメロンソーダだよ!」
「はい、分かった」
ひなたが伝えたオーダーを、厨房の人が書き留める。
「そうだ。ひなたちゃん、あの料理を十番テーブルの方へ持って行ってくれ」
「うんっ、分かったよ」
「それじゃ、頼んだよ」
了解したひなたは、クリームソースのパスタ、イタリアンハンバーグ、そしてアップルパイが盛られた皿を全てトレイに載せ、
十番テーブルの方へ向かう。
「はいっ、お待たせだよっ」
「ありがとう」
「えへへ〜〜♪」
料理を運んできてお礼を言われ、はにかむひなたは、離れ際にこう言った。
「それじゃあ、ごゆっくりどうぞ。ちゃんと全部食べ切ってね♪」
「ははは……ひなたちゃんに言われたんじゃあ、残す訳にはいかないな。ちゃんと全部食べるよ」
「うんっ、約束だよ♪」
丁度そこへ、有紀がひなたに近づいてきた。
「あっ、ゆーきちゃん」
「ねぇ、ひなたちゃん」
「ほぇ、何?」
「ひなたちゃんてさ…何で、お客様相手にタメ口使って、逆に喜ばれてるの?」
有紀は凄く気になっていた。店員からタメ口を使われたら不機嫌になるのが普通なのに、何故ひなたにタメ口で接されて、
あんなに笑顔でいられるんだろう?
やっぱり、ひなたのファンだからとか、そういうものなのだろうか?
そして、ひなたが出した答えは――――、
「う〜んとね……………分かんない」
「へ?」
「だって、ボクがお客さんにちゅーもんとか聞きにいったら、みんな喜んでくれるもん♪」
「あ、ああ、そう………じゃあ、次の質問」
もうこれ以上、ひなたに何を聞いても無駄だろう――。そう思った有紀は次の質問をする。
「さっきのお客様に全部食べ切ってねって言ってたけど……何でそんな事を?」
「えっとね、それはね。ボク、許せないんだもん」
「許せない?」
「うん。前にね、食べかけのはんばーぐとか、色んなお料理が食べ残された事があってね。でも、ご主人様が『コレはお客様
がお金を払ったものだから、俺達にはどうしようも無い』って言ってね、結局全部捨てちゃったんだ………」
「うん、それで?」
「でもね、ご主人様はボクの言ってる事は間違ってないって、後で褒めてくれたんだ。だから、ボクはお客さんにお料理残さない
ように注意してるんだ。だってもったいないでしょ? 作ってくれたお料理残すなんて。わざわざお金まで払ったのに―――
食べ物は粗末にしちゃいけないんだよ」
「………」
子供ながら、的を射た、偉い考えだ―――有紀はそう思った。
「……そっか。ひなたちゃんは偉いね」
「えへへ…………」
「……ちょっと、アンタ達」
声がする方へ向くと、明らかに苛立っているとばりが。
「こんな忙しい時にお喋りだなんて、何考えてるのよっ!」
「あっ、ごっ、ゴメン」
「あわ、とばりちゃん、ごめんなさいっ」
「全く……そんなに暇なら、あたしの食器下げのお手伝いでもしてもらおうかしら?」
とばりの発言に、有紀の脳裏に先程の光景が浮かぶ。
「あっ、ボクっ、真面目にお仕事するよ!!」
「あっ、そうだ! 料理運びのお仕事もしないと!」
と、仕事を言い訳にとばりから逃げる二人。
「はぁ……全くもう……」

こうして、『FRIENDS』喫茶店の忙しい時間が過ぎていくのだった――――。


「ありがとうございました」
ドアベルの音と共に、最後のお客さんが喫茶店から出た。
「お疲れさん。後は後片付けだけやから、頑張ってくれや」
「はい」
そう言って、まだ下げていない食器の片付け――ひなたの努力もあってか、食べ残し及び飲み残しは全く無かった――をして、
テーブルを拭き、塩や砂糖が切れていないかどうかを確かめ、少なくなっていたら新たに補給し、後片付けは終了。
そして、全員が着替え終わり、
「ご主人様っ、お待たせだよ♪」
「お待たせ、お兄ちゃん」
先に着替え終わっていた男性陣に少し遅れる形で、女性陣全員が出てきた。
「どうやった? ココでの仕事は?」
拓也が有紀に聞くと、
「以前も、喫茶店のお仕事をやった事はあるんですが………まさか、こんなに疲れるとは思いませんでした……」
「……はは、そらしゃーないわ。あの視線に耐えるのは、新人には少し酷やからな。でも、結構良く出来てたで」
「本当ですか!? 有難うございます、拓也さん!!」
拓也の褒め言葉に、一気に元気を取り戻す有紀。
「シュウも、今日はホントにお疲れ様。皆の中で最年少なのに、良く頑張ったわね」
「うん…ありがと、とばりおねーちゃん」
とばりに褒められて、ご満悦のシュウ。
「そういえば、有紀ちゃん、口座番号は持ってきてくれたか?」
「あっ、はい……コレです」
「おおきに。じゃあ、給料はココにシュウの分も含めて振り込んどくわ。今日は特別に手渡しやけどな」
そう言って、二人は拓也から茶封筒を手渡される。
「「有難うございます」」
二人そろって、拓也に有難うを言う。

ペットショップの入り口前まで来て。
「それじゃ、みんな気ぃ付けてな」
「分かってる」
「みどーっ、ばいばーい」
「それじゃあね」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様。拓也さん、この後もお仕事、なんですよね……頑張ってくださいね」
「ああ、あんがと。仕事つっても、売り上げの集計とかなんやけど」
有紀は拓也にそう言って、拓也は頭を掻きながら、笑って答えた。
「えへへ、初めてのお給料ですぅ〜♪」
「それじゃ、早く帰ろう。お姉ちゃん達待ってるよ」
「はいっ」
二人は星空の元、二人並んで家路を歩くのだった――――――。























後書き
どうもー、久しぶりです。紅陽華です。
今回は、自分のオリキャラがぴゅあぴゅあキャラ達と一緒に喫茶店で働くお話です。
ちなみに――ぴゅあぴゅあ本編では喫茶店のメニューがどんなのか全く分からないので、料理の殆どは自分が
勝手に出しました。すいません………(イタリアンハンバーグとダージリンティーとかは覚えてるんですけど)
ちなみに、喫茶店でのイベントで、ひなたが食べ物を残したのを見た時にもったいないと言った事と、とばりが
潤に次々とお皿を渡した事を小説のネタにしてみました。


短いですけど、今日はこの辺で。
以上、ひなたに絶対アレを着せてやる!と決意した紅陽華でした♪






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