紅陽華 様投稿作品
ここは神崎家。かぐらとユージの二人は笑っていいともを見ていた。
「あのさー、二人とも悪いんだけど………」
「? 何ですかご主人様?」
ご主人様の恭子の呼び掛けに応えるかぐら。
「今日、お祭りのバイトで神社行ってきてくれない?」
「えっ? ―――別に構いませんが、何で私達に?」
「あー、それはね……… そのバイト、友達に任されたんだけど………他の友達の屋台の手伝い頼まれてさー」
「それで、ご主人様達はそっちに行って、ボク達は神社側のバイトですか………」
「解りました。任せてください」
恭子は、「ありがとう、恩に着るわ」と言って、そのまま行ってしまう。
「お祭り、かぁ……………」
かぐらが感慨深そうに言った。
楽しい夏祭り
「今年も夏祭りの時季になりました。目を向ければあちらの人ももこちらの人もお祭りを心の底から楽しんでおります。
そして美男美女カップルも多いこと多いこと。かく言う私と拓也さんもその一人―――」
「おい」
「ん? 何小さいお兄ちゃん? 人がノリノリで実況してる時に……」
「誰に実況してんだよ誰に。後小さい言うな」
「だって事実妹の私より背低いしー。っていうか一応幽霊なんだから、姿形を『もし生きてたらこれぐらいだろうな』
ぐらいに変身すればいいのに」
「バカ、幽霊は未来の姿には成れないんだよ………」
「えぇ〜、どんだけぇ〜」
「何がどんだけなのよ、全く………」
今回、私達は有紀が言う通り、この街の夏祭りを楽しみにやってきた。
メンバーはお馴染みの面々に加えて…………
「うわぁ、みんな楽しそう………」
「みずほちゃんって、お祭り初めて?」
「うん、あんまり行ったこと無いから……」
「じゃあ今日は思いっ切り楽しもう!」
緑の男性用浴衣を着たケンタの隣にいる猫耳っ子のみずほちゃんに、
「わぁー、さちおねえちゃんの浴衣きれーい」
「ありがとうひなたちゃん。美和さんもありがとうございます」
「あっ、いえそんな………」
「それにして本当に似合ってるぞ、その浴衣」
潤さんの大切な人、さちさんに、
「……………」
「……………」
「………何だ二人とも?」
「…いやぁ、健太君の姿見てたら懐かしくて眩しい思い出が次々とね……あの頃はジョンも生きてて、毎日が楽しかった……… 今も
十分楽しくて幸せだけどね」
「あの、私幽霊見たの初めてなんで……… ホントのホントに本物なんですか? 何か触れるし、足もしっかりあるし、影もあるし…」
私の弟、健太の三人。
でも、この三人は生きている人ではなく、既に死んでいる人達―――簡単に言えば幽霊である。
え? 何で私達が幽霊と一緒にいて、しかも話せてるかって?
それは、確か去年の夏………さちさんのお墓参りに行った時にケンタとひなたちゃんの二人が逸れちゃって……そこで二人が今紹介した
三人と出会って……… で、狐耳っ子姉弟のかぐらちゃんとユージ君に『蘇りの一週間』とかの事を説明されて……………
とりあえず、詳細は作者の第一作目、『満月の夜の再会』を参照にしたら、もっと良く解ると思うわ。
で、今日はみんなで夏祭りに来たってワケ。
ひなたちゃんは金魚の柄の入った白い浴衣、美和ちゃんは髪の色と同じ色の浴衣、とばりちゃんは黒に所々蝶蝶の模様がある浴衣、
私はシンプルに白に紫陽花柄、有紀は黒にひまわり模様の浴衣。
そして、ケンタも抹茶色の浴衣を着ている。コレは健太が昔着ていたもので、ひなたちゃん達が浴衣を着てお祭りに行くと知ると、
「ボクも浴衣着たい!」
とせがむので、コレを着せた。地味な色だけど、本人は実に気に入っているようだ。
「んじゃ、こっからはそれぞれ分かれて行動やな」
「え…… みんなで一緒に行かないんですか?」
そう聞いてきたのはシュウちゃん。髪形をツインテールにして、他のみんなと同じく浴衣を着ている。
但し、同じ男子で浴衣を着ているケンタと違い、ピンク色にアサガオ柄と明らかに女物。彼も浴衣を着たいって言ってきたんだけど、
ケンタの分以外余りが無かったので、仕方なく小さい頃の有紀の浴衣にした。
「いやぁ、以前は逸れたときが大変でな。しかも人数は多くなっとるし、予めそれぞれ分かれてたら楽かと思ってな」
「それもそうですね。流石拓也さん、冴えてるー」
拓也さんの隣で有紀が彼を褒める。
「ふふ…仲が良いんですね、あの二人」
「アレを本当の『バカップル』って言うんだろうな」
「ご主人様、バカは言い過ぎだと思いますよ?」
と、そんな事を言い合ってる潤さんとさちさん。
班分けは、私、ケンタ、健太、みずほちゃんの四人、潤さん、ひなたちゃん、さちさんの三人、
拓也さん、有紀、シュウちゃん、とばりちゃんの四人、美和ちゃん、晴彦君、まゆみちゃん、セイヤの四人と、四組に分かれる事に。
「じゃ、そういう事で後は各班で祭りを思いっきり楽しんでや!」
「ハイ、お待たせしましたー」
恭子はパック入りの焼きそばを客に渡す。
その右隣では、彼女の友人がお好み焼きを焼いている。
「すいませーん、関西風お好み焼き一つー」
「はーい」
客の注文に答える友人。。
ここは、恭子が手伝いを任された焼きそばとお好み焼きの屋台。ちなみに妹の恵は、隣のかき氷の屋台の手伝いをしている。
「ふぅ〜、あっつ……… 隣の方が良かったなぁ……」
と愚痴る恭子。夏の暑さに加えて、熱された鉄板からの熱気もあるので、確かにそういう愚痴も言いたくなる。
「あら、じゃあそろそろ交代しましょうか?」
そう言ってきたのは、友人の母。
「あっ、すいません、有難うございます」
お言葉に甘えて、裏仕事の方と交代する恭子。友人の方も、父と交代したようだ。
「ゴメンね、恭子もお祭り楽しみにしてたんだろうけど………」
「いいのよ別に。困った時はお互い様でしょ」
「有難うございましたー」
恵がかき氷を買っていった客にお礼を言う。
そして、次の客が来た。
「いらっしゃいませ。―――あれ、御堂さんと有紀さん? それにとばりさんにシュウ君も」
「あっ、恵ちゃんじゃない。久し振りー」
「ん? 何? 恵このお客さん達と知り合いなのか?」
恵の隣の友人が聞いてきた。
「うん、今年の冬に青森で偶然知り合ってね。――他の皆さんは?」
「あぁ、潤達ならそれぞれで祭りを楽しんでるがな。ところで、注文ええかな?」
「あっ、いいですよ。何にしますか?」
「じゃあ……… おぉ、コーラとは珍しいな。じゃ俺はコーラで」
「私は……コレも珍しいなぁ…… パインのミルクかけで」
「じゃ、私は無難にイチゴミルクにしようかしら」
「わたしはメロンでお願いします」
「「はーい」」
恵と友人は元気よく答えてかき氷を作り始める。作業中に恵が、
「ところで、お二人は今日はデートですか?」
「「えぇっ!?」」
驚いたのは、有紀とシュウの二人。
「やっ、やだ何言ってるのよ! デートは普通二人っきりでするもので………」
「あぅぅ………ご、ご主人様、わたし達お邪魔でしたか……?」
半泣き状態で有紀に聞くシュウ。
「えっ…いや、そんな事無いわよシュウ。お祭りはみんなで楽しむから面白いんだから。ねぇ、拓也さん?」
「あ、あぁ、勿論やないか」
「はは…… ちょっと冗談で聞いただけなんですが……すいませんね」
「全くもう、恥ずかしかったじゃない………」
謝りながら、恵は有紀と拓也に、友人はシュウととばりにかき氷を渡した。代金は、有紀がまとめて払った。
「それじゃあ、有難うございましたー」
私達は神社まで来て、二人に出会った。
「あら、かぐらちゃんにユージ君?」
「……あっ、美奈さん。それにケンタ君、みずほちゃんに健太さんも……」
「二人とも神社でお仕事?」
「まぁ、ちょっとお手伝いでね」
何でも恭子ちゃんに頼まれて来たらしい。元々は彼女に頼まれた仕事を引き受けたとの事。
「まぁ、仕事と言っても、殆どココに座って売り子するだけなんですけど」
「………ところで、お二人がいるという事は、やっぱりさちさんも?」
「はい」
「そう、ですか…………」
やけに暗く答えるかぐらちゃん。私が理由を聞くと、
「あの、私達が去年教えた『蘇りの一週間』は………現世に未練を残した者だけが降りてくるんです。以前は、その事を言い
そびれてしまって…………」
「別にかぐらさんが気にする事じゃありませんよ。未練が残ってるのは自分の責任ですし」
「それは、そうですけど……」
「なら、それでいいじゃないか」
みずほちゃんと健太に言われて、ようやく明るさ取り戻したかぐらちゃん。
「そうですね。……すいません、仕事柄、未練を残した霊相手に苦い思いをいつもしているので…………」
「そういえば――、確か今日のお祭りは花火大会をやるとか言ってましたよ。確か九時半から一時間はするとか……
きっと良い思い出になるとおもいますよ。あっ、その前に今年は私の知人が舞を舞うそうですから、それも見るといいですよ」
「そうなの。――今は七時だから、まだ時間はあるわね。ありがとう」
「いえ」
そして、私達は二人と別れ、花火が始まるまで色んな屋台に寄りつつ、その舞の舞台まで向かうのだった―――。
潤達の方は、美奈達よりも更に奥の方に行っていた。
「あっ、金魚すくいだ」
「金魚すくいか……やってみるか?」
「…………ううん、やっぱりやめとく」
「? やりたかったんじゃないの?」
「……あぁ。そっか」
潤はひなたが、以前亀すくいをやった時に、狭い水槽の中よりも広い場所の方が亀が喜ぶだろうという事で、池に捕まえた亀を離した事
があったのを思い出した。その事をさちに説明すると、
「そうなんですか……… ひなたちゃんは優しいのね」
「えへへ………」
さちに撫でられて嬉しそうなひなた。
と、突然さちが、
「あら……? ご主人様、何か聞こえませんか?」
「えっ、何かって………」
「うん、ボクも聞こえる……… コレって、笛の音?」
ひなたとさちは聞こえると言っているが、潤の耳には騒ぐ人々の声が聞こえるだけだ。
そしてひなたに引っ張られるがままに、潤は二人の行く方へ進んでいく。
「何か笛の音やら太鼓の音やらすると思ったら、踊りやってたんだな」
同じく、笛の音を聞いてやってきたセイヤが言った。
舞台は観客席よりも少し高めで、周りを席で囲まれているようになおり、とても見やすい。
その舞台の上では、巫女服を着た茶髪の狐耳っ子の少年と、同じく巫女姿の紫色の髪の女性が、扇子を手に持って舞を舞っていた。
その舞は何所か幻想的で、美しい舞だった。見学人は全く声を出さず、聞こえるのは笛と太鼓等の音と、屋台列の方から聞こえる
人々の声だけ。
だが、そのやかましい声すら聞こえない程、全員がその舞に見入っていた。
舞を舞う二人も、まるで人の目など気にしていないかのように、自然に体が動いているかのように舞っていた。
「―――綺麗……」
ぽつりと、美和が呟いた。
その舞は、とても美しかった。
私達も含め、殆どの観客が黙ってそれを見ていた。
「わぁー…すっごくきれー………」
「うん、とっても綺麗だね」
「何ていうか…心に響くのがあるな」
三人がそれぞれの感想を述べる。
「ねぇねぇ、ご主人様は?」
「私? 私もみんなと同じ感想よ」
ただ、そんな美しい舞を見ていない一組があった。拓也達である。
多くの人が舞を見に行ったので、殆ど屋台で並んで待つ必要が無い為、楽に屋台を見て回り、購入したいものを買えるのである。
「あっ、ご主人様、輪投げしてもいいですか?」
「輪投げかぁ。懐かしいなぁ―――。何か欲しい物があるの?」
「はい、アレです♪」
そういってシュウが指差したのは………
「………アレ?」
「はい、あの可愛いネコのぬいぐるみですぅ♪」
本人は可愛いと言っているが、有紀から見ると可愛いかどうかは微妙な、ネコ――なのか?――のぬいぐるみだった。
有紀はアレと同じようなネコを、ゲーセンや某同人ショップで見掛けた事がある。何でそんなネコのぬいぐるみがお祭りの屋台に?
「……じゃ、じゃあ、頑張ってゲットしてみようか…… すいませーん」
「はいよ、一回二百円ね」
「はい」
有紀は屋台のおじさんに二百円を渡し、おじさんは輪を有紀に五個渡す。
「はいシュウ」
「有難うございます」
有紀はシュウに輪を渡す。おじさんが、
「おや、そっちの猫のお嬢ちゃんがやるのかい? 頑張りなよ、お嬢ちゃん」
それを聞いたシュウが脹れて、
「むぅ〜…… 私は女の子じゃむがっ」
「シュウ、ここは我慢我慢」
有紀はシュウの口を塞ぐ。
「よーし………えいっ!」
シュウはネコのぬいぐるみ目掛けて、輪を投げる!
が、ネコに輪が当たりはしたが、結局弾かれて地面に落ちる。
「あぁ〜、惜しいなぁ……」
「むぅぅ〜〜……今度こそ、それっ!」
シュウが二投目を投げる!
今度は上手く、綺麗にネコのぬいぐるみ中に入った!
「やったぁっ!!」
その後、残り三つの輪の内の一つが、お菓子のクッキーに入った。
「良かったね、シュウ」
「はい♪」
シュウは手に入れたネコのぬいぐるみを抱き締め、満足そうな笑顔をする。
その時、
『お知らせします。間もなく花火大会が開催されます。間もなく花火大会が開催されます』
「花火大会…… そんなのするんだ」
「よし、今からよく見える場所に行くか」
拓也の案に賛成して、彼らは他の人達の向かう場所へと付いて行く。
「うわぁ、早速混んどるな」
「潤達ももう着いてる頃でしょうね」
この神社の近くの河川敷には、既に沢山の人々が集まっており、今もなお、多くの人々が集まってくる。
「シュウ、絶対手離しちゃダメだからね?」
「は、はいっ」
シュウは有紀の手をしっかりと握り、有紀に付いて行く。
「きゃっ!」
シュウは誰かとぶつかってしまう。更にその拍子でさっき手に入れたネコのぬいぐるみを落としてしまった。
「あっ…!」
拾いにいこうかと思ったが、今ここで手を離せば確実に迷子になる。
結局、シュウはそのまま有紀に付いて行くしかなかった。
「…………」
シュウの落したぬいぐるみを拾った少女がいた。
その少女は、白い猫耳にシッポを有し、黒く長い髪をしていた。
花火大会が始まった。まず最初に大きめの花火が上がる。
夜空に光の花が咲き、遅れて大きな音が鳴る。そして枯れるように消えていく。
「うわぁー! 凄い凄い!!」
「わー、すっごく大きくて綺麗ー」
ひなたちゃんとケンタは海の時より大きくて綺麗な花火を生で見れて嬉しそう。
「そういえば、家の近くの川でもこういう花火大会やってたわよね」
「そういやそうだな」
まだ私が実家にいた――健太が生きていた頃の話だ。毎年家族で見に行ってたなぁ………
今も忘れる事の無い、懐かしい、楽しい思い出。
今でも、あの川では花火大会が行われているだろうか? 今頃両親が見に行ってたりして。
「綺麗ですね……」
「さちは花火を見るのは初めてか?」
「えぇ。……出来る事なら、生きてる内に、皆さんと見たかったのですが……」
さちさんが悲しそうな、申し訳ないような表情で言う。
「―――でも私、嬉しいです。こうやってご主人様達と一緒に、お祭りを楽しめたんですから」
「…そうか……」
また花火が打ち上がり、夜空を明々と照らす。
この夏は、皆にとって、最高の思い出になることだろう――――。
かぐら達も、丁度夜空に輝く花火を見ていた。
「うん、やっぱり夏と言えば花火よね」
大きい花火が夜空に咲いたと思えば、今度は断続的に、小さいものが次々上がっていく。
「潤さん達も楽しんでるでしょうね」
「きっと、いい思い出作りなるだろうね」
夜空を明々と照らすを花火を眺めながら、ユージが言った。
花火大会が終了して―――。
「あれ、シュウあのぬいぐるみは?」
「あっ、その……落としちゃって……」
「えぇっ!?」
有紀が驚いて、一緒に探しに行こうと言おうとした時、
「………ねぇ」
「……え?」
有紀達の前に、一人の猫耳っ子の少女が現れた。
白い耳にシッポ、だけど髪は対照的に黒。
シュウは、彼女の姿に見覚えがあった。ずっと昔、記憶の中に―――。
「…コレ、キミのでしょ?」
そう言って、彼女が差し出したのは―――。
「………あっ」
それは紛れもなく、シュウが落としたネコのぬいぐるみだった。
「はい」
「……あ、ありがとうございます……」
少女はシュウにぬいぐるみを渡す。
「じゃあ、私はもう行くね」
少女はそう言って、そのまま二人の前から去っていく。
「あっ、待って………」
「……ずっと見守ってるからね……」
呼び止めようとしたシュウに、彼女は最後にそう呟いた。
そして、人混みの中に紛れていった。
「―――あの子、シュウの………」
有紀が呟いた。
「――――ありがとう、お姉ちゃん――――」
空には、祭りの後の静かな寂しさを少しでも紛らわすかのように、星が点々と輝いていた。
後書き
よーやく夏祭り編終了です………夏の話なのにもう十月半ばだよ………
今回はさちさん達が再登場です。まぁ、以前来年にもう一度再会する約束しちゃった以上、やらなきゃ詐欺になると思ったので。
とりあえず、コレで夏SSは全て終了です。
次は、何かまた、冬モノでも書きたいな………
追伸:KLEINの皆さん、新作製作頑張ってください!
※KLEIN編:死の物狂いで頑張ってます……お待たせしてすみません(泣(10/22付け