M 様投稿作品
ぴゅあぴゅあif under the darknight
真っ暗だ・・・
何も見えない・・・
前も後ろも、右も左も、上も下も・・・
どこまでも続く、闇、闇、闇・・・
ここはどこだろう?
いや、どこでもいいか・・・
どこにいたって、どうせ・・・
闇の向こうにわずかな光が見えた。
その光はだんだん大きくなっているようだ。
そして、その光は人の姿になりはじめた。
それは・・・さち。
「さち!!」
俺は叫び、駆け寄り、抱きしめた。
「さち。また会えたんだな。さち・・・」
しかし、さちは何も答えない。
「さち?」
さちはただ、悲しそうな表情で俺を見つめていた。
なぜだろう? なぜさちは笑ってくれないんだ?
俺がこうしてそばにいるのに。
どうして・・・
ふいに視界がぼやけだした。
周囲の闇と同化するかのように、さちの姿がうすくなっていく。
「ああ! さち!! いくな!! さちぃっ!!」
ぴゅあぴゅあif under the darknight
〜見えぬ月 朽ちた心〜
まぶたを開く。
その目に映るのは、いつもの天井。
夢、か・・・
さちの夢。
何度見ただろうか。
数え切れないほど見た。
何度も、何度も、何度も・・・
はぁ・・・
薄暗い部屋の中、一人ため息を吐く。
いったい何日こうしているだろうか?
電気もつけず、カーテンも閉めきり、外と完全に遮断されたこの部屋で、
いったい何日たったのだろうか・・・
時間の感覚はもうなくなっている。
そういえば、いつだったか、何度か玄関のドアを叩く音が聞こえたような気がする。
誰か来たのかな?
いや、どうでもいいことか。
そう、どうでもいいんだ・・・
どこにいたって、なにをしたって、さちには会えないんだから・・・
目を閉じる。
闇が広がる。
もう光は見えない。
さちはいない。
その闇の向こうに見えるのは、遠き日の思い出・・・
初めての出会いは、何気ないものだった。
さちが授業の手伝いに来て、少し話をした。
ただそれだけだった。
二回目は実習の授業の時。
さちはカットモデルとして現れた。
ショートカットにするはずだったのを、俺の勝手でセミロングにした。
さちは喜んでくれているようで、俺は満足だった。
先生にはずいぶんと怒られてしまって、さちに迷惑かけちゃったかもしれないけど。
そういえば、その後あたりからだったような気がするな。
さちが俺を『ご主人様』と呼ぶようになったのは。
なんでだろう? 迷惑かけちゃったのに・・・
でも、そこから楽しい日々が始まった。
俺とさちと御堂と、いつからかひなたも加わって、賑やかで楽しい日々。
ずっと続くと思っていた。少なくとも卒業するまでは・・・
そして、俺とさちの気持ちが通じ合ったあの日。
約束をした。
迎えにくるって。
一緒に暮らそうって。
約束を果たすためなら、どんな困難も乗り越えられると思っていた。
約束を果たせる日は、必ずくると信じていた。
信じていたのに・・・
もう、約束は果たされない。
さちはいないから・・・
目を開ける。
見えるのは、誰もいない俺の部屋。
いずれは二人で暮らすはずだった俺の部屋。
二人でご飯を食べたり、二人で掃除をしたり、二人でお茶を飲んだり、二人で語り合ったり、
そして、二人で愛し合えると思っていた部屋。
今は俺がたった一人。
ただ、ベッドに横たわっているだけ・・・
ふぅ・・・
ため息を吐き、目を閉じる。
闇。さちはいない。
目を開ける。
部屋。さちはいない。
目を閉じる。
闇。
開ける。
部屋。
何も意味はない。
わかっている。
わかりきっている。
さちがいないから。
さちがいなくなってしまったから。
はぁ・・・
眠りたい。
全てを忘れて眠りたい。
そうだ。
そうしよう。
どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう。
こうしていてもさちに会えないなら、こっちから会いに行けばよかったんだ。
俺はベッドから立ち上がり、ゆっくりゆっくり歩を進めた。
向かう先は閉めきったカーテン。
シャーッ
カーテンを開ける。
暗い。
今が夜だということを知る。
だが、月も星も出ていない。
どんよりと曇っている。
カチャッ カラカラ・・・
鍵を開け、ガラス戸を開ける。
ベランダに出て、空を見上げる。
どんよりと曇っている。
一点の光もない。
まるで俺の心みたいだな。
なんとなくそんなことを思う。
あの時は・・・
あの時は、月が出てくれたんだよな。
さちと一緒に月を見た、あの夜は。
さちがいってしまった、あの夜は・・・
だけど今夜はダメそうだ。
もう奇跡は起きない。
ここには、さちはいないから・・・
下を見る。
ここは四階。
高さは充分。
さち・・・
俺も、そっちへいくよ・・・
恐怖はない。
ごく自然な動きで、目の前にあるものを乗り越える。
平然と。淡々と。
手すりの向こう側へ・・・
浮遊感。
なんだか心地いい。
本当に楽になれる気がする。
人は、死の瞬間に思い出が走馬灯のようにめぐると聞いたことがある。
俺が思い出すのは、さちと過ごした日々。
ただたださちのこと。
全てさちのこと。
もうすぐ、もうすぐだ・・・
もうすぐ会える。
もうすぐさちの顔を見られる。
さちの笑顔を。
どこかで鈍い音が聞こえた。
意識が遠のいていく。
さち・・・
真っ暗だ・・・
何も見えない・・・
前も後ろも、右も左も、上も下も・・・
どこまでも続く、闇、闇、闇・・・
ここはどこだろう?
闇の向こうにわずかな光が見えた。
その光はだんだん大きくなっているようだ。
そして、その光は人の姿になりはじめた。
それは・・・さち。
「さち!!」
俺は叫び、駆け寄り、抱きしめた。
「さち。また会えたんだな。さち・・・」
しかし、さちは何も答えない。
「さち?」
さちはただ、悲しそうな表情で俺を見つめていた。
なぜだろう? なぜさちは笑ってくれないんだ?
俺がこうしてそばにいるのに。
どうして・・・
まあいいか。
今、俺たちは一緒にいる。
これからもずっと一緒だ。
いつか笑ってくれる時が来る。
俺たちは、ずっと一緒にいられるのだから。
「さち、もう離れないぞ。ずっと一緒だ。さち・・・」
俺の言葉は、永遠の闇の中へ、消えていった・・・
End
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<あとがき>
ど〜もご機嫌ようです。
もうひとつの『ぴゅあぴゅあif』はいかがでしたか?
もしかしたら、気分を害された方もいらっしゃるかもしれません。
もしそうでしたらごめんなさい。(土下座)
自分は基本的にハッピーエンド至上主義者です。
できることなら全てが丸く収まり、みんなが幸せになってほしいと思っています。
しかし、そう考えれば考えるほど、いえ、そう考えたくなる理由といえるのかもしれませんが、
『それ』はあるのです。
価値観は人それぞれ、どういう道を歩むかも人それぞれ、
自分だけのものさしで全てを測ることはできません。
しかしそれでも・・・
これ以上はくどくなりそうなのでやめておきましょう。
さて、真面目な話はこのくらいにして、次はバカなお話でも書くとしますか♪
以上、基本的にはバカでハイテンションで大騒ぎが大好きなMでした♪
でわでわ〜♪
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